保育の質を考える
ふぼれん 大河内 千惠子
くれよんくらぶ589号
 
 現在、多くの自治体で子ども施設の管理・運営が民間に移されてきています。大田区でもすでに保育園・児童館が委託や民立民営となっています。これまでの経過のなかでさまざまな立場の人の意見や考えを聞く機会がありましたが、必ず聞かれるのは「保育の質」という言葉です。「保育の質が落ちる」「保育の質の担保はどのようにしていくのか」・・・。ただ、いつもそれぞれの考える「保育の質」がすれ違っているように感じていました。「保育の質とは」と問われた時、私を含め即答できる人は少ないということを感じました。以下の文章は「保育の質」を考える足がかりにしていただきたいと思いまとめました。
 
1、保育の質とは
 「保育の質」は、その使われる場や使う立場でさまざまな意味合いをふくみます。ここでは、以下のように4つに分け、より明確にし考え易くしました。
(1) 制度(システム)の質
(2) 保育に携わる人の技量と資質(個人の資質)
(3) 関係性の質
(4) 組織の質
 
(1)制度(システム)の質
 必要な人が、適切で必要な保育サービスを受けられること、また、利用する大人や子ども一人ひとりに制度が行き渡っているかということが制度の質です。施設の設置基準や保育時間、人的配置に関することがまず考えられるでしょう。また、職員個人に任されがちな課題のある子どもや家庭への対応を制度として取り組んでいくことも大切です。これらのことは、保育の質のハードの部分であり、安心して預けることの基盤となるものです。利用者に保育制度に合う働き方や利用の仕方を強いてはいないか、施設で働く職員の都合を優先した保育制度になっていないかを早急に見直すことが必要です。
 
(2)保育に携わる人の技量と資質(個人の資質)
 一人ひとりの子どもの心と体の発達に深い理解と共感をもって適切な働きかけを実践できることがあげられます。そのために必要なこととして、ゆたかな保育プログラムをつくる企画力。それを子どものあそびとして展開できること。あそびや生活を通しての集団指導と個別の対応。日常のどのような場面でも子どもの安全確保の視点とその方法を理解し実践できること。緊急時での判断力を持つこと。個別の相談に適切に応えられること。科学的な分析力を持ち社会の変化と時代のニーズを的確に把握できることなどがあげられます。今、子どもの育ちを見つめた時に、保育に携わる人のゆたかな人間性と高い専門性が求められていることを強く感じます。
 
(3)関係性の質
 関係性で考えられることは、@職員間の関係性、A保護者との関係性、B地域との関係性です。@の関係性が良好であれば、職員全員が共通の認識に立って保育にあたることができます。職員間の会話のなかでより多くの情報の共有もできます。複数の担任や職務の担当制であれば、その時々のそれぞれの役割を理解・把握することが必要です。相手の立場に立ち、今自分が何をすればよいかを考え、1プラス1が2以上の力を発揮し保育に反映するには、経験だけではなく良好な関係性が不可欠です。Aの保護者との関係性は、ひとりの子どもを共に育てる大切なパートナーという意識をお互いに持つことです。保育者は、施設の方針・保育の内容・子どもの様子などの説明をその都度丁寧にすること。子どものトラブルやケガには迅速・的確に対応すること。そしてなにより保護者は子どもが毎日喜んで通うことでその施設と保育者に信頼を覚えます。それは毎日の保育の内容が問われるということです。保護者は、いつもその施設に関心を寄せ、可能な協力を可能な形でしていくことが大切です。保護者間の関係を良好に保つ努力も。その施設に通う子ども全体を見守る気概もほしいものです。子どもは仲間のなかで育ちます。Bの地域との関係性は、人のつながりが希薄になっているといわれる現在、特に留意しなければいけない関係性です。近隣とのトラブルも聞かれます。勤務先であっても地元の住民の意識をもって「夜間は留守にしますのでよろしくお願いします」という気持ちが大切だと思います。あいさつや行事のお知らせなど、ごく普通なことですがなかなかできていないことがトラブルの要因となります。
 
「みんななかよし」と子どもが感じられる関係性であってほしいと思います。良好な関係性のなかで育つことが、子どもにとって最大の幸せといえるのではないでしょうか。それは、なれあいの関係でないことはいうまでもありません。適切な緊張感と相手側に対する敬意が前提となります。
 
(4)組織の質
 その施設のシステムが有効に機能するための組織としての質です。「関係性」と違うことは、「経営」という視点です。充分とはいえない職員体制や財源のなかで、どれだけ有効に運営していくかという施設長の力量と指導力が問われるものです。人事管理・危機管理などの運営管理システムの確立とその徹底。財務に対する理解。そして、保育者一人ひとりの個性や保育観を受けとめ、保育者の力が充分発揮できる職場づくりが必要です。さらに重要なことは保育者の「違い」をまとめ、組織の力とし、保育方針や理念を日常の保育に反映させることです。また、(3)の「関係性」が良好に保たれるかどうかは施設長の肩にかかっているといっても過言ではないと思います。
 
2、保育は競い合うものではなく高めあうもの
 保育は施設同士が競い合うものではなく高めあうものという発想に立つことが大切です。競い合うものであれば、事業者の秘密となります。企業などの製品や研究・システムなどと保育の違いを明確にしていくことが必要です。現状の保育を受ける子どもも含めた利用者は、自宅から近い施設を選びます。それは、保育は日常の生活なかにあるからです。どこかの施設のサービスがすぐれていても毎日通うことは出来ません。非日常の中での「イベント」ではないわけです。自転車やベビーカーで、また、子どもが歩いて通います。子ども施設や関係機関がネットワークをつくり、情報交換や研修、企画やプログラムの公開、その施設で働く人の交流を日常的に行うことにより、全体の保育の質を高めあうことが、子どもや子育て家庭への本当の支援と考えます。
 
 子育てのネットワークは、NPOの得意分野といわれています。しかし、施設運営を担うだけの力の蓄積はこれからです。企業は経営的にも戦略的にもすぐれたものがありますが、保育のなかにも「企業秘密」の考え方をもっているように感じられます。自治体は膨大な情報をもっていますが、それをネットワーク化のために有機的にいかすことへの困難を感じています。それぞれの事業体が独自の特徴をいかしながら、MPO・企業・社会福祉法人・自治体のかわりなく、地域のなかでネットワークをつくり施設運営や地域の子育てに反映させながら「保育の質」を高めあっていくことが「時代の要請」といえます。


<<戻 る