超少子化を語る4
片山 善博さん 鳥取県知事
地方からの若者流出こそ深刻
読売新聞2006年1月7日付
くれよんくらぶ729号
 
「究極の少子化対策は、地方からの人口流出を止めることだ」。片山善博・鳥取県知事は、そのために、国のあり方から国民の価値観まで根本的な転換が必要だとして、持論の地方分権論を展開した。(聞き手は東京本社解説部次長・南 砂 みなみまさご)
 
人口減少傾向 急には変えられず
子供たちを地域を支える存在に
――2004年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供数の推計)が、過去最低の前年を更新。05年には、予想より2年早く人口減少が始まった。
「合計特出生率の減少は、1925年ごろには始まっており、戦後の一時的なぶれはあったが、大きな傾向は変わっていない。今はその流れの中にあり、じたばたしてもどうしようもないという冷めた認識を持っている。善かれという施策はやるべきだが、流れを急に変えることは難しい」
 
――人口減も、やむを得ないことと?
「日本はもう少し人口が減ってもよい。戦前、戦後に国策として、人口減らしのための移民政策をとった経緯があるほどで、1億3000万人が若干減り気味だからといって、今慌てて増やさなければ、という状況にはない。また、人口減の動きは必ず反転すると私は確信している。結婚しない人が増えて、将来、独居老人が猛烈に増えるだろうが、その時、若者はどう人生設計を描くだろうか。結婚して子どもをもうけ、家族と暮らすような、逆のモデルを思い描くのではないか」
 
――とはいえ、急激な少子高齢化は、社会保障や社会の活力に打撃を与える。
「年金などについて、ひとりの高齢者を支える若者が8人だったのがいずれ2人になる、という危惧がよく聞かれる。しかし昔は2人で8人の子を育てていた家族も決してまれではなかったのがいまはひとりしか育てない。その分、高齢者を扶養してもそんなに大変ではないはずだ。莫大な教育投資が少子化で圧縮され、年金等に回ると考えれば、社会保障が大変、とはならない。一面だけを誇張した眉唾な論議になっている。ただ、社会の活力が低下するのは事実だ。
 
――地方の行政のトップとして、少子化は何か深刻な問題か。
「地方にとっても最も深刻なのは、生まれ育った子どもたちが、高校卒業と同時に大都会に流出することだ。少子化を止めること以上に、いかに育てた子どもたちを流出させず、地域を支えてくれる存在に変えていくかが問題で、恐らく全国の半分以上の県の共通の課題だろう。人口流出が続けば地方は活力の乏しい社会になる。ただ、これもマイナス面だけではない。一人あたりの居住空間など、大都会に比べればとても豊かだ」
 
――育児支援の不十分さが少子化の一因とも言われている。知事は6子を育てられたと聞くが、日本の育児環境はどうか。
「今も2人、高校生がいる。かつて子育てをしたが大都会の環境は劣悪。学校が狭い、通学が危ない、遊び場がない、自然がない。これでは、生き生きした子どもは育てられない。しかも核家族が進み、育児は、不安と戸惑いを抱え孤独との闘いだ。子どもをかわいいと思うゆとりさえなくなる。昔の3世代同居は、経験豊富なおばあさんが、いわば無料コンサルタントだった。それが地方にはまだ少し残っている」
 
国のあり方の抜本的転換が必要
効率、採算だけの追求改める時
――鳥取県の少子化対策は具体的に何をしている?
男女とも外で働く時代なので、まず仕事と育児が両立できる環境の整備。それと、育児の経済的支援だ。実効性があるかどうかはまだわからないが、両立支援策として例えば、男性が出産後の育児休暇をとるよう奨励している。男性の育児参画が女性の育児負担を軽減して、精神安定にもつながるはず。県庁で育児休暇を取った男性職員も、取ってよかったと言ってくれている」
 
――少子化がいわれて久しいが、国の対策は一向に効果を上げていない。
「国も地方も、結局小手先、つまり対症療法だからだ。大きなトレンドに影響を及ぼそうと思えば、根本的対策が不可欠。例えば育児環境や通勤事情の劣悪な大都会に若い人が集まり、ますます子供を産まなくなるような国のあり方はやめて、子どもを産む世代が行く時間環境のよい地方に暮らせるようにするなど、抜本的な転換が必要だ。人生観、幸福観の転換も必要で栄進していく立身出世型の人生モデルを変えなければならない」
 
――国と地方、それぞれの役割は?
「国民一人一人が幸せに生きるにはどういう国土の構造にすればよいか、そのグランドデザインを描くのが国の役割だ。東京一極集中で、効率、採算だけを追求したら国は滅びる。その兆候が少子化だと、私は思う。子どもを産むという不採算なことを進めるには、国土の構造を物的にも精神的にも変えなければならない。今は逆行している。ますます採算、効率を追求して東京一極集中になっている。かつて国土の機能分散を図ったが、結果は地方で公共事業ばかりやって、せっかくの好機を逸した」
 「一方、地方は道府県が中央から色々なモデルをもらって咀嚼し、市町村に下ろす、という行政モデルと縁を切るべきだ。住民が自分で考え、納得のいく街づくりや政策を実施
する。魅力あるリーダー的人物をはぐくむことも必要だ。誰でも、住み慣れた所で家族とともに幸福な一生を送ろうと思えば、その町を良くしようとする。そう思う人をいかに増やすかだ。魅力ある街づくりで地方からの人口流出を止めることが、究極の少子化対策になる」
 
――自らの育児経験から読者にメッセージを。
「子育ては大変だが、経験が力になる。私も、3人目からはとても楽になった。当時中央官庁に勤めていたが、不必要に遅くまで働くことはしなかった。日本の労働モデルと企業モデルを変えないといけない。現状では、男女共同参画は組織の中枢と関係ない部署にとどまっているが、むしろ仕事のきつい中枢的部署にあえて女性を多数配置すれば、職場環境の改善も大いに進む。専任の少子化担当大臣が誕生したのだから、国のありかたや国民のライフスタイルを根底から変える対策に取り組んで欲しい」
 
● 出生率が上昇する市町村
2000年までの10年間で、合計特殊出生率の上がった人口1万人以上の自治体は約70ある。岩渕勝好・川崎医療福祉大学教授らは、この中から、自治体の政策が出生率上昇に結びついたと見られる兵庫県五色町、静岡県長泉町などを選んで調査研究した。その結果、これらの市町村には、若年既婚者層の転入と定住化の傾向がみられ、その背景に、中堅企業の工場誘致などの就業機会の創出や、住宅供給といった定住施策など、自治体の積極的な取り組みがあることがわかった。
 
都道府県別合計特殊出生率(2004年)
上位4県
1位   沖縄県
1.72
2位   宮崎県
1.52
3位   福島県
1.51
4位   鳥取県
1.50
全国平均
1.29
下位4都道府県
44位   北海道
1.19
 
45位   奈良県
1.16
 
46位   京都府
1.14
 
47位   東京都
1.01
 
「幸福」若者にどう訴える
明瞭でよどみない「地方分権・少子化対策論」には終始圧倒され気味だった。
 国土の構造から国民の人生観まで大きく転換しない限り、少子化の潮流は変えられないと強調し、脱少子化の道は結局、国民それぞれが、どう「幸福な人生」を描き、実現できるかだと説く。率直にうなずける話だ。
 ではこの論を、現代の若者の心に響かせるにはどうしたらよいのか。教育の荒廃、家庭の崩壊などがいたるところで進み、夢の持てない現代社会。若者の流出は、地方から都会ばかりでなく、今後は外国に向かっても進むかもしれない。国を挙げて真剣に取り組む必要性を、改めて痛感する。(南)