企業の取り組みに厳しい視線
――東京都「次世代育成支援」シンポジウムから――
公明新聞2006年1月31日付
くれよんくらぶ745号
 
 少子化問題や子育て支援の現状を、今後の社会を担って立つ若者たちはどう考えているか――。東京都は21日、シンポジウム「仕事で家庭でも輝きたい」を都庁で開催。昨年4月に都が策定した「次世代育成支援東京都行動計画」を踏まえ企業関係者、若手社員、学生らが、出産・育児と仕事の両立が可能な社会の在り方をテーマに意見を交わした。
 
雇用形態の多様化必要  
病児保育の拡大も課題
「育児休業は人生のエネルギー」
少子化問題と子育て支援に国、地域、企業が一体で取り組もうと昨年4月施行された「次世代育成支援推進法」。それぞれが「行動計画」を策定し、行政は保育サービスや住環境の整備など、企業は育児休暇の積極的取得など雇用環境の整備を推進し、仕事と育児の両立支援をめざしている。
 
ワーク・ライフ・バランス(WLB=仕事と私生活の充実)をテーマに講演した日本女子大学の大沢真知子教授は「女性の社会進出が進むと出生率が下がるのが必然だがデンマーク、オランダ、フィンランドなどでは社会進出も進み、出生率も上っている。背景は正社員のままパートで働く雇用形態の導入。フルタイムで週3〜4日、夫婦交代で出勤するケースもある」と説明。「収入は20%程度減るが、この形態はアメリカ、イギリスでも広がっている。仕事、育児、介護、自己啓発など各自の取り組みの重点をどこに置くか。人生の選択を多様に認める社会と企業が必要な時代になっている」と力説した。
 
シンポジウムにはパネリスト6人が登場。早稲田大学3年の佐野真理さんは、学内サークルで先輩の就労経験を記事にしメールマガジンで配信している。「結婚後も働いて社会に貢献したい。両立には企業の支援とパートナーの育児参加が不可欠で、女性の経済的自立も重要な要素。先輩の経験を踏まえて企業の選択をしたい」
 
野城雅則さんは東京理科大学大学院を卒業し4月から新社会人。「仕事とプライベートが両立してこそ仕事への意欲がわく。この考えを主張しながら就職活動に臨んだが、賛意を示してくれる採用担当者も多かった。長時間労働を美化する企業は今後、学生たちの希望職種から外れていく」と言い切った。
 
育児休業や時短勤務などの社内制度を活用して子育てに取り組んだ経験を報告したのは、(株)資生堂の田代裕美さんと富士ゼロックス(株)の末永幸治さん。「事前準備は大変だったが、子どもと共有した時間はこれからの家庭生活への自信、人生のエネルギーになった。母親の苦労を実感し感謝の思いがいっそう募った。今振り返ってもこみ上げてくるものがあり、多くの男性にこの経験を勧めたい」と語った末永さんに会場から深い共感が寄せられた。
 
IT産業から転進し、都内で病児保育事業を行うNPO法人を立ち上げた駒崎弘樹さんは26歳で独身。母親がベビーシッターで「面倒を見ていた子どもが病気になり、仕事を休んだその子の母親が解雇された。そんな社会に自分がいることへの驚きが仕事を始めるきっかけだった」「女性の社会進出に伴ってニーズは増えているのに、新規参入が進まないのは利益が上らない分野だから。補助金を受けると価格の決定権を失うのが一番の原因」と制度改善を強く訴えた。

 
企業からは加工食品大手の(株)ニチレイ経営企画部長の木谷宏さんが育児休業、短時間勤務など同社の支援制度を紹介。「先日、在宅勤務の女性社員が新聞(「読売」1・18)で紹介された。そこには"片道2時間の通勤時間は家事にあてられるし、子どもの帰宅時には家にいられる"と。ニチレイは歴史のある企業だが、いつまでも"おじさんのパラダイス"ではいけないと工夫と知恵で支援制度に取り組んでいる。女性役職者の増員などを含め多様な働き方を、さらに模索していきたい」と語った。
 
 
支援に熱心でない企業に優秀な人材は集まらない
ベネッセ次世代育成研究所 後藤 憲子さん
シンポジウム終了後、進行役を努めた(株)ベネッセ次世代育成研究所の後藤憲子さんに話を聞いた。後藤さんは「シンポジウム実行委員長の甫守美沙さん(早稲田大学3年)や佐野さんのように出産後もどうやって仕事を続けるか、就職活動を始める前から真剣に模索している。野城さんのように仕事も私生活も充実できる職場を選ぶ男子学生も出てきた。学生は企業をよく見ている。企業は学生から選ばれているという緊張感を持った」と。
 
「企業には出産後の職場復帰なども含めた子育て支援への真剣な取り組みが求められている。今後、2007年問題もあり採用競争が起こるといわれている。優秀な人材確保のために戦略的に取り組む企業も出てくるだろう。同時に滅私奉公型社員をよしとするのでなく、地域や家庭生活を重視する社員の育成も考えるべきで、長期的に見ればそれが企業にも一定のリターンをもたらすだろう」
 
一方、行政の支援は「保育サービスと子育て支援策の効率的な組み合わせがポイント。財源には限りがあるので難しい問題だが、保育サポートがしっかりした国はすなわち安心して働き、安心して子どもを産める国。この視点は少子化対策には欠かせないだろう。「働く人自身の、仕事と生活を両立させ充実した人生を築こうという意思と企業の両立支援策、安心して預けられる保育サービス、この三つが組み合わさってはじめて仕事と家庭生活の両立が可能になるのではないか」
 
【ふぼれん事務局長  菅野 司のコメント】
豊かさを享受できる社会とは、物質的な側面だけでなく、心理的な側面も含んでいる。いまの日本は、その両方が崩れてきている。一部に富が集中し、そのため多くの人々がその犠牲になっている。若ものを、アルバイトや非常勤の身分で長時間や深夜にまでわたって働かせている社会は異常である。長い目で見れば、庶民全体から購買力を失わせる社会は、必ず衰えを見せてくる。
いま一番問われているのは、経営者・企業団体の決意である。記事は「若ものが企業を選ぶ」と書いているが、選ぶことができるのは一部の若ものでしかない。生活保護や就学援助を受ける家庭が急増している現実は、「改革は急務」であることを警告している。日本の産業構造は欧米のように大企業中心ではなく、中小零細が圧倒する社会である。そこに改革の難しさがある。
 
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