くれよんくらぶ839号
乳幼児に新たな手当ては必要?
前田正子・横浜市副市長が試算
年4000億円あれば 地域の環境充実できる
東京新聞2006年5月27日
 
 乳幼児に新たな手当てが導入されれば必要となるお金は4千億円―。少子化対策の一つとして、ゼロ歳から3歳未満対象の手当ての是非が議論になっている。しかし、そのお金があればむしろ優先するべきなのは、「地域で必要とされる子育て支援の整備」と指摘する声が出ている。市の人口日本一の横浜市を例に考えてみた。(岩岡 千景)
 
「手当」という政策について、本年度から拡充された児童手当から見てみたい。
 支給額は月に第一子・二子が5000円、第三子以降は10000円。対象児童はゼロ歳―小学3年生までから6年までへと拡大され、所得制限も子ども二人のサラリーマン世帯の収入ベースでおよそ780万円から860万円まで緩和された。その結果、対象児童数は約370万人増の1310万人となり、支給総額は約8580億円と、新たに約2160億円増える見込み。
 
 人口約360万人の横浜市の場合、支給総額は、制度改正前の昨年度で約132億円だったのが、本年度は約250億円と、一気に約73億円も増えるという。その一方、国から地方に税源移譲する三位一体改革で、手当ての国庫負担率が3分の2から3分の1に減額され、市の負担分は昨年度の39億円増の57億円になる。この自治体の負担増は、たばこ税と地方特例交付金でカバーされることとなっている。だが、本当に国から十分な税源が移譲されるかどうかは、まだ、わからない。
 
児童手当の拡充分のお金があったら、一体何ができるのか。
 市の「地域子育て支援拠点整備費」は本年度、新設4ヵ所と概説1ヵ所で2億3千万円。NPO法人や社会福祉法人に委託し、スタッフに育児相談もできる「地域子育て支援拠点」は一ヵ所当たりの運営費で3800万円、親子が集まれる「親と子のつどい広場」(会費制や既存施設を利用)は250万円を予算化している。
 
 現代の子育ての大きな問題は、核家族で近所づきあいもなく、育児の不安や負担感を母親が独りで抱えがちなこと。そんな母親に安心できる居場所を提供する事業だ。手当拡充分の10分の1の7億円があれば、子育て支援拠点が年に18施設増やせるという。政府の少子化社会対策推進会議の専門委員である前田正子同市副市長は、「拡充分の一割でも子育て支援拠点の整備に回せば、孤立しているお母さんたちの状況は格段に変わる」と説明する。
 
 乳幼児への児童手当の加算という考えも出ているが、予算はどの程度必要となるのか。市の試算では、毎年約3300人の子どもが生まれ、仮に10万人に年12万円(月1万円)を支給すると、新たに120億円がかかる。市は「待機児ゼロ」を掲げ、昨年度までの3年間で認可保育所を101ヵ所(約8000人分)増設した。財政難が続く中、これに要した毎年の予算は約60億円。手当てはその倍に相当する額だ。
 
 総務省は4日まとめた人口推計で全国のゼロ歳―2歳児は約330万人。仮にすべての乳幼児に手当を月1万円支給すると、費用は年間約4000億円に及ぶ。月5000円でも約2000億円となる。「子ども分野の政策に、予算がもっと充てられるべきなのは確か。しかし、高齢者関連予算も膨れ続け、限界がある。そうした中では、少子化対策で財源の使い道に優先順位をつけ、まず行政にしかできない仕組みづくりに配分すべきではないか」。前田副市長はそう指摘して、続けた。
 
 「虐待が増え、児童の安全が脅かされる中、若く育児力の弱い親へのケアや放課後児童対策の充実も急務。だが、手当という現金給付はこうした地域で親子を支える事業を圧迫する可能性があることを知ってほしい」 
 
4000億円で、全国に何ができる?
▽子育て支援拠点(既存施設を利用)→約1500万ヶ所
▽親と子のつどいの広場(国基準の運営費1ヶ所600万円で試算)
  →約6万6600ヶ所
▽認可保育所(90人規模)→約3100ヶ所
 
まえだ・まさこ
 早稲田大学卒業。第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部・主任研究員を経て、2003年から横浜市副市長。著書に『子育ては、いま』(岩波書店)など46歳。
 
[事務局長 菅野司のコメント]
 前田さんとは以前から知り合いでした。横浜の副市長になっていることにビックリしました。子育て・子育ち関係の分野での財源の使い方。「手当て」もあるが、「施設」も大事、しかしもっと大事なのは、それらに関わる人の「専門性」です。どう3つの課題をバランスよく遂行するのかが、今後の課題です。