くれよんくらぶ860号
保育園民営化のゆくえ2 「子どもを守る」親は走る
水準維持へ行政と折衝
読売新聞7月26日付
 
 公立保育園の民営化問題が持ち上がった地域では、保護者たちの生活も一変する。
 
 東京都世田谷区のK子さん(36)は2004年春、区立保育園の父母会長に就任した。同区ではその年7月、06年からの5年以内に5園ほどを民営化する方針を決定した。
 
 「何がどう変わるの?」漠然とした不安から始まり「もう計画はとめられないの?」というクエスチョンマークが浮かんだ。
 
 計画は06年にまず、最初の1園を民営化するというもの。K子さんの園は民営化の対象ではなかったが、同じ区立園ということで、区の方針を知ろう、親の意見を聞いてほしい――と活動を始めた。
 
 育児に家事に仕事、それに父母会の活動が加わった。夜は子どもを寝かしつけながら、一緒に就寝。まだ暗い朝の3時か4時ごろに起き、メールをチェック。別の園の父母から、勉強会の案内などが届いている。返事を出すと、すぐにまた折り返し。「ああ、向こうも起きているんだな」と、連帯感も生まれた。
 
 取り組みの成果もあり、世田谷区では、保護者や有識者を交えた「民営化に関する意見交換会」を開き、「対象園の発表から民営化移行まで最低2年の期間を確保する」などのガイドラインを作成した。
 
 どんな事業者が運営を担うのか不安を感じる声が多かったことから、@園を運営するだけの財政的な安定感があるかA給食を園で調理しているかBアレルギーのある子どもへの対応ができているかC障害児保育への実績があるか――など、具体的な選定基準もガイドラインに盛り込んだ。
 
 親が寝る時間を惜しんでまで活動をするのは、ひとえに「子どもを守りたい」という思いからだ。信頼していた保育士の顔ぶれががらりと変われば混乱を招き、子どもにとって大きな負担にもなる。それに対して何ができるか――各地で模索が続いている。
 
 文京区でも、保育園のあり方を検討する協議会が設置され、1年11か月の間に33回も会合を持ってきた。今年4月に民営化した江東区豊洲保育園の保護者は、民営化前の保育士に保育内容を細かく聞き取りして、水準を下げないための条件づくりをした。
 
 保護者たちの声は、計画自体への「反対」から、「ゆっくり進めて」「事業者の選定に親もかかわらせて」など手続きに関するものまで様々だ。明星大学教授の垣内国光さん(児童福祉)は、「民営化されても、運動の効果は確実にある。事業者の選定が公開で行われるようになるなど譲歩≠勝ち取ることもあれば、自分たちの暮らす地域の保育に関心を持つきっかけにもなるでしょう」と話す。
 
 スタートラインは「わが子のため」だが、保護者たちの動きは、地域の今とこれからを見つめなおすことにもつながっている。
 
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